分解され床に並べられたDanceDanceRevolution筐体のベース部分、キャンパスの中庭を転がされていくホワイトボードの群れ、そして世界中のオフィスで集まり語り合う160以上のライアターチーム。これぞThunderdomeという光景です。
ロサンゼルスでは実に幅広いプロジェクトが進行していました。たとえばある部屋では3Dプリントした2XKOフィギュア用の塗料を混ぜるチームがあり、その隣では別のチームが「コーヒーショップを舞台としたコージーゲーム」の運搬方法について議論中でした。左に社内プロセスの改善に取り組むチームがあれば、右には配信用拡張を開発するチームもある。またある場所では開発者たちが集まり、各人を何年も苛立たせてきた細かな問題を修正するという共通の目的に意気投合していました。
「Thunderdomeはライアット版のハッカソンなんです。ゲーム業界ではゲームジャムと呼んだりもしますね」10年以上前にThunderdomeを提案した発案者にして、現在はライアットゲームズのテクノロジーヘッドを務めるEric “Riot Dankatron” Dankerは語ります。「でもゲームジャムにはゲームを作るという具体的な成果物が設定されています。Thunderdomeでは、あえてそこを定めないようにしているんです。ゲーム自体やゲーム案に取り組む人もいれば、たとえば財務部のワークフロー改善に取り組む人もいるわけです。自分のプロジェクトを通じて、誰かの日常をより良くするのが目標なんですね。それがプレイヤーの日常でもライアターの日常でも、目標を達成したと示せれば何をしても良いんです」
「Thunderdomeのアイデアを提案した当時はLoLもまだ黎明期で、チャンピオンをリリースし続けるのに忙殺されている時期でした」Riot Dankatronは続けます。「日々の業務が忙しすぎてバックログに入っている問題に取り組む時間が取れないというエンジニアたちもいて、“いっそ就業時間外に来てやってしまおうかと思うんだよね”とも口にしていました。意欲は素晴らしいですが、開発者が就業時間外に出社して修正しなくてはならないなんて何かが間違っていますよね。そこで、この状況に会社が全力で取り組んだらどうなるだろう?と思いついたんです。そして2012年に提案し、MarcとBrandonがそれを正式に承認し、150名のライアターが2日半にわたってひたすら色んなハックに取り組んだ。これが始まりです」
Thunderdomeはそれから長い道のりを歩んできました。Dankerによると今年のThunderdomeは14回目で、過去最大規模だといいます。参加するライアターの数は全世界20以上のオフィスで1500名を超えます。このためにロサンゼルスに来る者もいれば、ダブリンやシンガポールといったそれぞれの地域ハブに集まり、対面コラボレーションを実現している参加者もいました。しかし、なぜこんな事をするのか?と疑問に思う人も多いでしょう。
Thunderdomeを開く理由
何かを直すチャンス。創造性を解き放つ手段。純粋に楽しい。10人に聞けば10種類の答えが返ってくるでしょう。一点明確にしておきたいのは、Thunderdomeは直接的にゲーム用新要素を作るための取り組みではないという点です。ただしこれは作らないというわけではありません。実際、Thunderdomeはこれまでにも最高にクールなものたちを作り出しています。
一番有名な例は「Proving Grounds」──後にハウリングアビスとなった「ランダムミッド」の「ミッド」部分──でしょう。この他にもチャンピオンスキン、ミニゲーム(リンク先英語)、そしてマップスキンなどは、いずれもThunderdomeで誕生したプロジェクトです。とはいえ成果物を世に出すことに集中してしまえば、Thunderdomeの元々の精神を狭めすぎてしまいます。
「Thunderdomeの終わりには、多種多様な成果物が並びます」Riot Dankatronは言います。「楽しかったけれど実験としては失敗、というケースもある。でもその過程には学びがあります。もちろん、ほぼそのままリリースできるようなものが生み出されることもある。でもそうしたものでなくても、多数のアイデアが最終的に実現するんです。ちょっとしたアイデアが長い年月を経て熟成され、まったく別の姿に生まれ変わったりするから」
たとえばこんなクールな例はどうでしょう(あくまで仮定の話です)。2012年、Thunderdome参加者が少人数でLoLチャンピオンを使った2D格闘ゲーム(リンク先英語)を作りました。その4年後にライアットがTom and Tony Cannon’s Radiant Entertainmentを買収し、後の2XKOを開発する基礎が揃います。
数年前に格闘ゲームを開発していたライアターたちはそのチームに移籍したのでしょうか?当時のリーダー陣は格闘ゲームで動き回るアーリを見て「いや、これ本当にやるべきか?」と言ったでしょうか?当時入社したばかりだったRiot Augustはプレゼンテーションを見て「ここに巨大メカフィストを装備したチャンピオンがいたらなあ」と思ったでしょうか?真実は誰にもわかりません。もちろん当人たちに聞くことはできるでしょうけれど、仮定の話ですからひとまず突っ込まないでおきましょう!
とはいえ、この仮定はあまりにも直接的だったかもしれません。伝えたかったのは、創造性を追跡しきるのは不可能だということです。そして、そんな創造性を煌めかせることこそがThunderdomeの真髄です。もちろん体調は最優先です。48時間のあいだもしっかり休息は取りましょう。
「創造性とは、ライアットの礎です」そう語るAhmed Sidkyのチームは現在、全ライアター向けに公開される上流視点の製品戦略コースを設計所属しています。「Thunderdomeが皆の創造的欲求に改めて火を着け、夢を描いたり他者とつながったりする機会になればと思います。別に1日がかりのワークショップという形式じゃなくても創造性は発揮できるんです。他のライアターと会話しながらアイデアを練り上げていくだけで、すさまじい創造性が開放されるのですから。これこそがThunderdomeです。ひとつのアイデアから始まり、それを48時間で形にする。そのためには協力する必要があり、創造的に考える必要がある」
Thunderdomeの3日目、厳密に言えば開幕から51時間が経過するとプレゼンテーションが始まります。通称「科学コンテスト」の時間です。重曹を使った火山噴火実験こそありませんが、雰囲気はまさにあのまま。ホワイトボードとPCの周囲にチームメンバーが集まり、2日間のジャムで取り組んだことをプレゼンテーションしていきます。それぞれのチームが取り組みの成功を、手強かった課題を、そして学びを他のライアターと共有する時間です。
今年はアワードも立ち上げ、イベントを通じて優れた創造力、情熱、献身を示したチームに賞も贈りました。
今年のThunderdomeプロジェクトの具体的な情報を公に発表することはありませんが、もしかすると今後数年内に発表されるプロジェクトは、この48時間の間に生まれ落ちたアイデアかもしれません。ちなみにあなたがライアットのキャンパスを訪れ、社内DDR筐体で『POP/STARS』をプレイしたなら、あるチームが極めて有意義な48時間を過ごしたことは体感してもらえるでしょう。